生成AIを取り入れるか否かで、小規模診療所の生き残りが決まると言っても過言ではない

PUBLISHED AI #コスト削減

物価や人件費が上がる一方で、診療報酬は実質的に下がり続けています。そのなかでコストが下がっているのはテクノロジーだけです。小規模診療所こそ生成AIを取り入れるべきだと考える理由と、現実的なコストカットの道筋を整理します。

私は元々、SNS的な煽りや不安を煽るような表現が好きではありません。そのため、このような強い言い方は普段あまり使わないのですが、今回はあえて少し踏み込んだ表現にしています。それくらい、現場感として重要だと感じているためです。

本題に入りますが、特に小規模な医科診療所という前提で考えた場合、生成AIを業務に積極的に取り入れるか、それとも「リスクがあるもの」として距離を置くか、このスタンスの違いによって、今後の経営や業務効率には明確な差が生まれてくるのではないかと考えています。今回は、この点について私自身が感じていることと、実際にどう向き合うべきかという観点から、具体的な考えと対策を整理していきたいと思います。

小規模診療所の経営環境は急速に厳しくなっている

先生方であれば実感されている通り、現在のクリニック経営は非常に厳しい状況にあります。COVID-19以降の社会変化や国際情勢の緊張、ここ数年のインフレと円安の影響により、物価は急激に上昇しました。日本は長らくデフレ環境にありましたが、いまでは日常生活の中でもはっきりと体感できるレベルで物価上昇が進んでいます。それに伴い、人件費の上昇に加え、外注検査費用や各種備品費も増加しています。マスクや手袋といった消耗品に至るまで、あらゆるコストが積み上がり、全体として支出が大きく膨らんでいるのが現状です。

一方で、診療報酬は名目上はプラス改定とされているものの、物価上昇には到底追いついておらず、実質的にはマイナス改定が続いていると言わざるを得ません。さらに、制度上の規制や事務的な負担はむしろ増加しており、現場の負荷は年々高まっています。この結果として、「売上は大きく伸びない一方で、コストは確実に増え続ける」という構造が固定化しつつあります。つまり、最終的に残る手取りは確実に圧縮されているというのが、現在の実態ではないでしょうか。

近年開業したクリニックは特に厳しい

数十年前に開業された先生方は、診療報酬の条件が現在ほど厳しくない時代を経験されており、一定の資産を蓄積されているケースも多いと思います。そのため、多少収益が圧縮されたとしても、経営としては大きな問題にならない、あるいはこのタイミングで閉院を検討される、といった選択肢を取り得る状況にある方もいらっしゃいます。

一方で、ここ数年で開業された先生、あるいはこれから開業を検討されている先生にとっては、状況はまったく異なります。初期投資や借入を抱えた状態で、コスト増と収益の伸び悩みが同時に進行する現在の環境は、率直に言って非常に厳しいものがあります。このまま何の対策も取らなければ、経営として立ち行かなくなる可能性も現実的に考えなければならない局面に入っていると感じています。また、この傾向は開業医に限らず、勤務医の働き方や待遇にも徐々に影響が及び始めており、医療業界全体としても無関係ではいられない問題になりつつあります。

診療報酬の向上が見込めない以上、コストを見直すしかない

売上が伸びず、コストが増え続けるという状況において、取り得る選択肢は大きく二つに集約されます。すなわち、「売上を伸ばす」か、「コストを見直す」か、という点です。しかし、保険診療の枠組みの中で売上を大きく伸ばすことは、現実的には容易ではありません。診療報酬という制度に強く依存している以上、個々のクリニック単位でコントロールできる余地は限られています。

一方で、自由診療を取り入れることで収益構造を変えるという選択肢もあります。実際にその方向へ舵を切るクリニックが増えているのも事実です。ただし、自由診療を新たに立ち上げて収益の柱に育てるためには、設備投資や人件費といった初期コストが発生し、その回収リスクも伴います。短期間で大きく収益を伸ばすのは、決して簡単ではありません。

こうした状況を踏まえると、現実的な対応としてまず求められるのは、「コストをどのように見直すか」という視点ではないでしょうか。限られた条件の中でコスト構造を最適化していくことが、今後の生き残りを左右する重要な戦略になると考えています。

人件費の上昇と人手不足が大きなボトルネックになっている

さまざまなコスト上昇がありますが、多くの先生方が最も頭を悩まされているのは、人件費やスタッフ確保の問題ではないでしょうか。かつては最低賃金が1,000円を下回ることも珍しくなく、地域によっては700円台という時代もありました。しかし現在では、都市部を中心に最低賃金は1,200円を超える水準に達しており、人件費の上昇は避けられない状況となっています。クリニック経営においては、外注検査費用や各種サブスクリプション費用など、さまざまな支出がありますが、その中でも最も大きな割合を占めるのはやはり人件費です。この部分を見直すことができれば、経営全体へのインパクトは非常に大きいと考えられます。

さらに問題なのは、人手不足の深刻化です。賃金を引き上げたとしても人材が集まらないケースが増えており、特に医療機関の事務職については、採用自体が難しくなってきています。実際、経営的に余裕のあるクリニックであっても、人材募集に苦戦しているという話は珍しくありません。このように、「コストとしての人件費」と「確保できない人材」という二つの問題が同時に進行しており、現場の負担はさらに大きくなっているのが実情です。

テクノロジーだけがコストが下がっている

物価が上がり、人件費も上がり、あらゆるコストが上昇している中で、むしろコストが下がっているのがテクノロジーの分野です。テクノロジー業界では、性能が継続的に向上し続ける一方で、価格競争も激しく、結果として価格は下がっていく傾向にあります。例えば、10年前に最強スペックだったパソコンが、今ではかなり安価に手に入る状況になっています。もちろん、近年はメモリ価格の上昇などによって一時的に価格が上がる局面もありますが、それでも性能の向上を考えれば、全体としてはコストパフォーマンスは大きく改善していると言えるでしょう。テクノロジー業界は、ある意味で「デフレ」に近い構造を持っています。これは単なる技術進歩だけでなく、ソフトウェアの特性とも深く関係しています。

ソフトウェアは複製が可能です。一度優れたものが作られれば、それをほぼ追加コストなしで無限に配布することができます。その結果、優れたソフトウェアは急速に普及し、やがてコモディティ化していきます。さらに現在は、生成AIの爆発的な進化も重なり、この流れは一層加速しています。テクノロジー業界は、今まさに大きな変化と機会が同時に存在する、非常に興味深い局面にあると言えるでしょう。

テクノロジーの本質は「実体がなく、無限に複製できる」こと

テクノロジーの最大の特徴は、実体を持たず、無限に複製が可能であるという点にあります。シリコンバレー最重要思想家であるNaval Ravikantも、繰り返し指摘していますが、ソフトウェアは極めて強力なレバレッジを持っています。しかもそれは、誰かの許可を必要とせずに活用できるという点で、最も強力なレバレッジの一つだとされています。(※参考→『シリコンバレー最重要思想家 ナヴァル・ラヴィカント』 は著者の意向によりPDF版が全世界に無料で公開されてます。)

この考え方は、従来であればテクノロジー業界の中の話にとどまり、他業種の人にとってはあまり関係のないものと捉えられていたかもしれません。しかし現在は状況が大きく変わっています。生成AIの爆発的な進化によって、あらゆる業種においてテクノロジーを実用的に使える環境が整ってきました。いわば「テクノロジーの民主化」が進んでいる状態です。だからこそ、この流れを単に消費する側として受け取るのではなく、自らの仕事や価値提供に組み込んでいく視点が、これまで以上に重要になっていると感じます。

テクノロジーによって、実際にコストは下げられる

テクノロジーを取り入れることで、特に人件費の削減は現実的に可能であると、私は日々の診療の中で実感しています。診療所の業務には、本来であれば人がやらなくてもよい作業を、人が惰性で続けている部分が少なくありません。例えば、電話でのみ予約を受けている、レセプトのチェックを目視で行っている、病名を一つひとつ手作業で転記している、といったケースです。実際には、こうした運用が多くの現場で当たり前のように残っています。一つひとつは小さな作業に見えるかもしれませんが、積み重なると無視できない時間になります。例えば、患者さん一人あたり1分の確認作業であっても、1日50人来院するクリニックであれば、それだけで50分です。これを年間で考えると、チェック作業に何日分もの時間を費やしている計算になります。

こうした「小さな無駄」を一つずつ減らしていくことが、確実に時間の節約につながり、結果として人件費の削減にもつながっていきます。私は、たとえワンクリックであっても減らす努力を積み重ねることが、最終的には時間とコストの最適化につながると考えており、そしてそれは診療所の経営そのものを改善していく重要な要素になるはずです。

事務職員1人削減のコストの重み

例えば、1日8時間、週5日、時給1,500円で働く事務スタッフ1人分の業務を、テクノロジーによって代替できると仮定します。月の勤務日数を20日と仮定すると、 8時間 × 1,500円 × 20日で、月あたり24万円の人件費となります。これを年間で考えると、288万円です。小規模な診療所にとって、このコスト削減は非常に大きな意味を持ちます。特に人件費は固定費であるため、この部分を見直せるかどうかは経営に与えるインパクトが非常に大きいと考えています。

さらに重要なのは、これは単なる額面上の人件費だけの話ではないという点です。先生方も日々実感されていると思いますが、採用には多くの労力とコストがかかります。面接対応、ハローワークへの求人提出、求人会社を利用する場合の手数料、雇用保険や労災保険の手続き、社会保険の各種届出など、見えにくい事務コストも少なくありません。こうした一連の負担が不要になることを考えると、テクノロジーによる効率化は、単なるコスト削減にとどまらず、診療所運営そのものを軽くする効果があると考えています。

現実的に、このレベルのコストカットは可能である

このようなコストカットは、机上の空論だと思われがちです。しかし実際には、テクノロジーを活用することで、事務作業を大幅に削減することは十分に可能です。例えば、電話での予約を廃止し、オンライン予約システムに一本化する。レセプトチェックや病名チェックを人の目ではなくコンピューターに任せる。病名の入力や転記、検査結果の入力といった細かな作業も、Tampermonkeyをフル活用し、電子カルテ運用をカスタマイズによって効率化することができます。これらは既存するシステムの導入や、生成AIにより簡易的なツールを作成することで十分可能です。多少の導入コストがかかっても、人件費よりもはるかに節約できます。(※Tampermonkeyについては別記事で扱います。)

一つひとつは小さな改善に見えるかもしれませんが、これらを積み重ねることで、事務作業の負担は確実に軽減されます。さらに追い風となっているのがマイナンバーカードの導入です。賛否はあるものの、保険資格の確認や入力の手間は確実に減少しています。こうした環境を踏まえると、現在の一般的な診療所であっても、業務の一部をコンピューターに置き換えることで、人手による作業は大きく削減できます。その結果として、必要な人員を見直すことも現実的な選択肢になってくるはずです。

小規模診療所と生成AIの相性は非常に良い

これまで述べてきたような取り組みは、実は小規模診療所にこそ大きな利点があります。大規模病院や中規模以上の組織では、既存のシステムを変更すること自体が難しく、職員の理解や合意形成、コンプライアンス対応など、多くのハードルがあります。そのため、構造的な改革はどうしても進みにくいという現実があります。

一方で診療所は、院長の意思決定ひとつで、その日から運用を変えることができます。このフットワークの軽さこそが、大規模組織に対抗する最大の武器になります。実際、大規模病院では生成AIの利用を制限しているケースも少なくありません。しかし診療所であれば、個人情報の取り扱いに配慮しながら、自らの判断で柔軟に導入することが可能です。まずは、身近なところからで十分です。例えば、事務的なメールの返信を生成AIで下書きする、診療情報提供書の叩き台を作る、といった小さな活用でも、業務の負担は確実に軽減されます。

さらに一歩進めると、電子カルテの操作を効率化することも有効です。例えば、ブラウザ拡張やスクリプト(Tampermonkeyなど)を使って、病名の転記や保険資格確認といった定型作業を自動化することで、日々の業務は大きく変わります。もちろん、いきなりプログラミングに取り組むことに抵抗がある先生も多いと思います。その場合は、無理に難しいことから始める必要はありません。まずは既存のツールやテンプレートを使い、コピペからでも十分です。少しずつ使い始めることで、「ここも効率化できるのではないか」という気づきが生まれてきます。その延長線上で、必要に応じて生成AIを活用しながら簡単なコードを書いてみる、というステップに進めばよいと思います。例えば、病名チェックの簡易ツールや、レセプト関連の確認ロジック、あるいは会計ソフトへの仕分け登録の自動化なども、個人レベルで実装できる時代になっています。

重要なのは、ゼロか100かで考えないことです。ほんの少しの業務改善でも、それは確実に時間の節約とコスト削減につながります。そして、その小さな成功体験が積み重なることで、最終的には診療所全体の運営を大きく改善していく力になります。この差は数ヶ月では小さいかもしれませんが、数年単位では決定的な差になるはずです。当サイトでも、コピペでそのまま使えるようなツールを順次公開していく予定です。何か取り組むきっかけとして活用していただければ幸いです。

About the author この記事を書いた人:内科診療所の院長

IT企業でもコンサル会社でもなく、診療をしている開業医が、コードの作成から運用まで一人で行っています。取り上げるのは、実際に試して運用しているものだけです。

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