生成AIの進化により、ソフトウェア開発のハードルは大きく下がりました。これから重要になるのは、プログラミング知識そのものよりも、「この情報が欲しい」「この作業を自動化したい」といった問題意識です。特に開業医は、現場の課題を自ら発見し、意思決定から導入・検証まで一貫して行えるため、生成AIとの相性が非常に良いと考えます。
生成AIが台頭する現在、ソフトウェア開発において最も重要なのは、プログラミングの知識そのものではなく、「この情報が欲しい」「こういうことがやりたい」という問題意識そのものではないかと私は思います。従来は、何かやりたいことがあったとしても、その前には「プログラミング」という非常に高いハードルがそびえ立っていました。しかし現在、そのハードルはほぼ取り払われたと言ってもよい状況になりつつあります。私のように、プログラミングの専門知識がほとんどない人間であっても、「こういうことがやりたい」「こういうソフトが欲しい」「こういう情報をワンクリックで得たい」といったアイデアがあれば、それを実際の形にすることは、すでにそれほど難しいものではなくなりつつあります。
今回は、生成AI時代のソフトウェア開発において、なぜプログラミングの知識以上に「何をしたいのか」「どの情報が欲しいのか」という問題意識が重要になってきているのか、改めて考えてみたいと思います。
プログラミングの専門知識がなくてもソフトが開発できる夢のような時代
この記事を執筆している2026年9月現在、プログラミングの専門的な知識がほとんどなくても、ソフトウェアを開発できる時代になっています。もちろん、本当に基礎的な知識については、最低限あるに越したことはありません。しかし、それでも極端な話、HTMLで「Hello World」を表示することさえできなかったとしても、普通にパソコンを操作し、文字を入力することができれば、自然言語、つまり私たちが普段使っている普通の言葉を使って、ソフトウェアを開発することが現実に可能な世の中になっています。これについては、私がこれまでご紹介してきたいくつかの記事でも、すでに実証できているのではないかと思います。
これは、実は夢のような時代なのではないかと思います。今までは「こういうサービスが欲しい」と思ったとしても、それを自分で実装するためのプログラミングの知識を身につけるには、途方もない時間がかかりました。そのハードルを突破することは、プログラミングを本業としていない人間にとっては、事実上ほぼ不可能に近い状況だったのではないかと思います。
しかし現在では、生成AIを導入することで、専門的な知識がほとんどなくても、自分好みのソフトウェアを作れるようになってきています。特に、既存のサービスでは埋められない「ちょっとした隙間」を埋めるようなソフトウェアであれば、場合によっては1日で開発できてしまうこともあります。今まで「このちょっとした作業が面倒だ」と感じながらも、そのまま受け入れるしかなかったものを、自分自身で解決できるようになっています。しかも、それを以前とは比較にならないほど低いコストで実現できるようになりました。
もちろん、プログラミングの知識そのものの価値がなくなったわけではありません。システムが複雑になれば、データベース、セキュリティ、サーバー、API、Gitなどの知識があるほど有利です。ただ少なくとも、プログラミングの知識が「何かを作り始めるための入場券」ではなくなりつつあることは、大きな変化だと思います。
現場の声を即反映できる時代
従来のソフトウェア開発では、例えばある程度大きな会社が「この業務を効率化したい」と考えた場合、まず現場の職員から意見を吸い上げ、ソフトウェア会社の担当者と面談を行い、「こういうことを、こういうふうにできるようにしたい」と要望を伝えるところから始まることが一般的でした。その内容をもとにエンジニアがプログラムを書き、実装し、検証して、さらに修正するという工程を繰り返して、ようやく一つのサービスが完成します。
当然、これにはかなりの時間がかかります。時間がかかるということは、その分だけ人件費もかかるため、大きなお金も必要になります。また、プログラムを書くこと自体にも専門的な知識と経験が必要であり、専門職が動く以上、そこにもコストが発生します。つまり、一つの業務を効率化しようと思ったとしても、そのために必要なコストや時間、労力を考えると、とても気軽にできるものではありませんでした。小さな企業ではコスト面から事実上難しく、大きな企業であったとしても、気軽に取り組めるものではなかったと思います。
しかし、この状況は生成AIの台頭によって一気に変わりつつあります。「こういうソフトが欲しい」というアイデアを持った人が、その場でClaude Codeを開き、「こういうサービスが欲しい」と相談すれば、生成AIがコードを書き上げます。その場で実際に動かして検証し、必要があれば修正することもできます。極端な話、今まで多くのクリックを必要としていた作業や、何度もコピー&ペーストしなければならなかった作業、いちいち別のソフトを立ち上げなければならなかった作業などを、ワンクリックで処理できる仕組みが、わずか数時間で作れてしまうこともあります。
この変化の中でも特に大きいのは、単純に「開発時間が短くなった」ということだけではありません。実際にそのソフトを使う人間自身が、その場で検証し、「ここを変えてほしい」「この情報も表示してほしい」とすぐに修正を指示できるようになったことです。従来であれば、現場から要望を出し、それを担当者が聞き取り、エンジニアへ伝え、完成したものを再び現場へ戻して確認するという工程が必要でした。生成AIを使えば、その間に存在していた多くのやり取りを省略できます。その結果、本当に欲しいソフトウェアが、ものすごい速さで、しかも現場のニーズを直接反映しながら出来上がっていきます。開発そのもの以上に、このフィードバックの速度が大きく変わったことは非常に重要だと思います。
金銭的なメリットも大きなものがあります。ソフトウェア開発では、やはり人件費が大きな割合を占めます。要望を伝えるための打ち合わせや調整を減らすことができ、さらにコードを書く作業そのものも生成AIがかなりの部分を担えるようになりました。いわば、間に何人もの人間を介することなく、「これが欲しい」と思った本人が、そのままダイレクトに欲しいソフトを作れるようになったということです。
開業医という立場にものすごく相性がいい
ここでクリニック経営者としての話に戻すと、やはり開業医という立場は、生成AIとものすごく相性が良いのではないかと思います。いくつか理由はありますが、大きく分けると、私は次の2つが重要だと考えています。
意思決定を自分でできること
すでに電子化された診療・請求データを持っていること
まず1つ目の「意思決定を自分でできる」という点です。これまでの記事でもいろいろと書いてきましたが、新しい技術の導入というものは、組織が大きくなるほど簡単には進めにくい面があります。生成AIを臨床や経営、事業に応用しようと思っても、個人情報の取り扱いや機密情報の管理、外部サービスへどのような情報を入力してよいのかなど、検討しなければならないことが数多くあります。特に多くの人が関わる大きな組織では、社会的な責任も大きいため、「便利そうだから今日から使ってみよう」というわけにはいきません。組織によっては、ChatGPTなどの生成AIを業務で利用すること一つをとっても、さまざまな確認や手続きが必要になると思います。
その反面、開業医は基本的に自分自身が経営者であり、最終的な意思決定者でもあります。もちろん、患者さんの個人情報の取り扱いやセキュリティについては、自分自身が責任を持って十分に考える必要があります。しかし、その前提をきちんと守ったうえであれば、「このツールを導入する」「この仕組みを試してみる」といった意思決定を、比較的すぐに実行へ移すことができます。
さらに重要なのは、開業医自身が現場の人間でもあるということです。「この操作を毎日何回も繰り返すのが面倒だ」「この情報をすぐに一覧で見たい」「この数字を毎月集計する作業をなくしたい」と感じる本人が、同時に意思決定者でもあります。そして生成AIを使えば、その本人がそのままソフトウェア開発の指示を出すことができます。つまり、開業医の場合、「問題を発見する人」「導入を決める人」「開発を指示する人」「実際に使って検証する人」が、すべて同じ人間になり得るわけです。
これは非常に大きな強みだと思います。大きな組織がなかなか動けない間に、小さな組織は小回りを利かせて、新しい技術をどんどん試すことができます。少し大げさな言い方かもしれませんが、生成AIの登場によって、いわば「巨象に蟻が挑める」ような機会が訪れているのではないかと、私はひそかに思っています。
そして2つ目が、「すでに電子化された診療・請求データを持っている」ということです。現在では、多くのクリニックが電子カルテやレセプトコンピューターを利用しています。紙カルテを使っている医療機関であっても、診療報酬請求については電子化されているところが多いと思います。以前の記事でもご紹介しましたが、電子レセプトで診療報酬を請求していれば、診療内容や請求内容が記録されたUKEファイルなどのレセプトデータが作成されます。このデータを活用すれば、クリニック経営についてさまざまな角度から分析することができます。
UKEファイルは、私にとってはまさに「経営分析の宝庫」です。患者さんの年齢層、診療内容、検査件数、処方、各種診療行為など、普段の診療だけをしているとなかなか見えてこない情報が蓄積されています。これを使わない手はないのではないかと思います。例えば、インフルエンザ検査を月ごとに何件行っているのかを集計すれば、検査需要の季節的な変化を見ることができます。また、どの年代の患者さんが多く来院しているのかという情報も、クリニックの特徴や今後の経営を考えるうえで参考になります。
さらに、診療行為ごとの件数や診療報酬上の収益を分析すると、自分の感覚だけでは分からなかったことが見えてきます。検査キット代や材料費などの原価データを別途組み合わせれば、検査ごとの粗利を計算するといった分析も可能になります。実際に数字として分析してみると、「思っていたものと違った」ということは意外に多くあります。
私自身、年齢層については感覚どおり30代、40代の患者さんが圧倒的に多かった一方で、自分が思っていた以上に、特定疾患や生活習慣病などで継続的に通院してくださっている患者さんが、いつの間にか増えていたことにも気づきました。また、「今月は経営的に少し厳しいのではないか」と感じていた月であっても、実際に数字を均して見てみると、思っていたほど悪くなかったということもありました。こうしたことは、感覚だけで診療しているとなかなか分かりません。実際にデータを集計し、可視化してみることで、初めて見えてくるものがあります。
例えば処方箋料のように、一件一件を見ればそれほど大きな金額ではないと感じるものでも、1か月単位で集計すると何百件という数になります。そうすると、「処方箋料だけでもこれだけ収益に貢献しているのか」ということが分かります。一般名処方加算などについても同様で、実際にどの程度算定しているのかを数字として確認することで、自院の診療報酬上の特徴や、算定できるものを適切に算定できているかを見直すきっかけになります。もちろん、診療報酬のために処方薬を増やす等の、不適切な診療を行うことはあってはなりません。しかし、医学的・制度的に適切な範囲で、算定できるものを漏れなく算定するという視点は、クリニック経営において重要だと思います。
このように、開業医には「自分で問題を発見し、自分で意思決定できる」という強みがあり、同時に、日々の診療によって大量のデータも蓄積されています。そこに生成AIとプログラミングが加わることで、これまでであれば専門会社に依頼しなければできなかったような分析や業務改善を、自分自身で行えるようになってきています。これは、開業医という立場が生成AI時代と非常に相性が良い、大きな理由ではないかと思います。
もちろん、「ソフトウェアを作れること」と「それを安全に本番環境で運用できること」は別問題です。特に患者さんの個人情報や診療情報を扱う場合には、情報管理やセキュリティについて十分な注意が必要です。その点は、生成AIによって開発が簡単になったからこそ、むしろ強く意識しておく必要があると思います。
これはもう次世代の標準になる
おそらく、こうした生成AIを使ったソフトウェア開発は、特に事務的な仕事において、今後一つの標準になっていくのではないかと思います。さらに広く言えば、パソコンを使って仕事をする人にとって、標準的なスキルの一つにまでなっていく可能性があります。
特に重要なのは、大規模なシステムではなく、本当に小規模な、いわば「隙間の中の隙間」のようなニッチな部分を埋めるソフトウェアです。現在では、そうしたものまで個人が簡単に作成できる時代になりました。そして実際の現場では、むしろそうしたニッチなソフトウェアこそ非常に役に立つ場面があります。今まで人間が手作業で行っていた細かな部分をコンピューターが埋めてくれるようになると、労力の削減効果は非常に大きなものになります。そのため、必要なソフトを、必要だと思った人がその場ですぐに作って使っていくということが、今後は標準的になっていくのではないかと思います。
これは仕事だけに限った話ではありません。例えば学生であれば、自分に必要な単語帳の管理ソフトや、暗記物を管理するソフトを自分で作ることもできます。自分が間違えた問題をまとめて、その中からランダムに出題するソフトを作ったり、間違えた問題をもとに数値などを変えた類題を生成し、実践演習を何度も繰り返したりすることもできます。
私自身も試しに、暗記物の勉強のために、単語カードをプログラミングで復習しやすい形にしたものを作ってみたことがあります。実際に使ってみると、「これが学生の頃にあったら、どれだけ勉強を効率化できただろう」と思いました。生成AIを使えば、自分の勉強方法そのものに合わせて学習ツールまで作れてしまいます。本当に、今の学生はうらやましい時代だと思いますし、自分が学生の頃にも生成AIがあればよかったのに、と感じます。
おそらくこれからは、「既存のソフトを上手に使える」というだけでなく、「自分に足りない機能があれば、その場で小さなソフトを作って補う」ということまで、パソコンを使う人の一般的な能力になっていくのではないでしょうか。
だからこそ、日常の「ちょっと面倒」に気づくことが重要になる
ここまで考えてくると、最初の話に戻ります。これからソフトウェアを開発するうえで重要なのは、必ずしもプログラミングコードを詳しく知っていることではありません。むしろ、「なぜ、この作業を毎日手でやっているのだろう」「この情報をワンクリックで見られないだろうか」「毎月同じ集計をしているけれど、自動化できないだろうか」「今使っているソフトに、この機能だけあればもっと便利なのに」といった、日常の小さな不便に気づくことの方が重要になってきているのではないかと思います。
以前であれば、こうした不満に気づいたとしても、「でも自分では作れないから仕方がない」で終わっていました。しかし生成AIがある現在では、その不満そのものがソフトウェア開発の出発点になります。「こういう情報が欲しい」「こういうことができたら便利だ」という問題意識さえあれば、それを生成AIに伝え、実際に形にしてみることができます。そして使ってみて違えば、その場でまた修正すればよいわけです。
私自身、クリニックの日常業務の中で、「この情報をすぐに取り出したい」「この作業を自動化したい」「このクリックをなくしたい」と思ったところから、いろいろなものを作ってきました。振り返ってみると、最初にあったのはプログラミングの知識ではありません。「ここが面倒だ」「こうなったら便利だ」という、ごく単純な問題意識でした。
生成AI時代には、コードを書く能力以上に、「何が面倒なのか」「何が欲しいのか」を見つけ、それを言葉にできる能力の価値が高くなっていくのではないかと思います。そして開業医にとっては、もしかするとこれから重要になるのは、プログラミングコードを覚えること以上に、自院の日常業務をよく観察することなのかもしれません。