電子カルテ・医療システムを操作する記事です。ご使用のシステムの利用規約を確認のうえ、自己責任でお試しください。患者さんの情報は、外部の生成AIに送らないでください。
レセプト請求に使うUKEファイルには、患者さんの年齢や傷病名、診療行為、検査、処方、受診日など、クリニックの診療を分析するための情報が豊富に含まれています。従来は請求のためだけに使われることが多かったUKEファイルですが、生成AIを活用すれば、個人でも必要な情報を取り出し、自院に合わせた分析ツールを作れるようになってきました。当院で実際に行っている分析例も紹介します。
以前、クリニックの日計や売上、検査件数などを分析する方法についてご紹介したことがあります。例えば、検査件数を集計し、診療報酬や検査キットなどの原価と組み合わせることで1年間の粗利を計算したり、抗原検査の件数を分析して在庫数と連携させ、クリニックに必要な抗原検査キットの在庫数を把握したりすることができます。また、検査の実施情報と傷病名を組み合わせることで、コロナやインフルエンザの陽性患者数を推定・集計するといったことも可能です。
私は現在M3デジカルを使用しているため、これまではM3デジカルから出力したCSVファイルを分析する方法をご紹介してきました。この方法は非常に便利ですし、他の電子カルテであっても、診療データをCSVなどの形式でダウンロードできるのであれば、基本的な考え方は同じです。ただし、私は他社の電子カルテについて詳しいわけではありません。そのため、これまでご紹介してきた方法は、やや汎用性に欠ける情報でもあったと思います。
しかし、レセプト請求に使用する「UKEファイル」を利用すれば、この問題をある程度解決できます。UKEファイルはレセプト請求に使用するデータですので、どの電子カルテを使用しているかにかかわらず、電子レセプト請求を行っている医療機関であれば利用できます。極端な話、診療録自体は紙カルテで管理していて、レセプト請求だけを電子化している診療所であっても、UKEファイルがあれば分析の材料を得ることができます。
つまり、特定の電子カルテのCSV出力機能に依存しなくても、UKEファイルから必要な情報を取り出すことができれば、クリニックの診療状況や経営状況を分析できる可能性があるということです。今回は、このUKEファイルとはそもそもどのようなものなのかをご紹介したうえで、実際にUKEファイルから情報を取り出し、クリニックの分析に利用する方法について見ていきたいと思います。
UKEファイルというのは情報の宝庫
UKEファイルというのは、毎月のレセプト請求の際にレセコンなどから作成され、審査支払機関への請求に使用されるファイルです。保険診療を行ううえでは、まさに核となる非常に重要なファイルの一つといえます。
そして、保険請求に使用するファイルである以上、診療に関する重要な情報が非常に多く含まれています。もちろん、実際のカルテに記載されている詳細な診療録そのものが入っているわけではありませんが、患者さんのお名前や年齢、保険情報、受診した日、さらに診察や検査、処方など、保険点数として請求した内容が記録されています。意外なところでは、住所などは基本的に含まれていません。つまり、UKEファイルは、クリニックで「誰に、いつ、どのような保険診療を行ったのか」という情報がまとまった、いわば情報の宝庫ともいえるファイルなのです。
ただし、ほとんどのクリニックでは、UKEファイルはレセプト請求のために使用するだけではないでしょうか。私自身も以前はそうでした。このファイルの中身を実際に展開して、診療に役立てたり、クリニックの経営分析に使用したりすることは、通常の業務ではほとんどありません。例えば、インフルエンザの繁忙期に検査を何件実施したのか、さらに検査の実施情報と傷病名を組み合わせて、陽性と考えられる患者さんが何人いたのか、陽性率がどの程度だったのか、といったところまで分析することは、一般的にはあまり行われていないと思います。
従来、このような診療データや経営データの分析を行う場合には、専用のソフトウェアを利用するのが一般的でした。レセプトデータを利用した経営分析ソフトや、病名チェックを行うソフトなど、医療機関向けにはさまざまな製品があります。一方で、こうした仕組みを個人で一から開発することは、以前であればかなりハードルが高いものでした。UKEファイルの中には非常に価値のある情報がたくさん含まれているにもかかわらず、その中身を自由に取り出して自分のクリニックのために活用することは容易ではなかったのです。ある意味では、非常に良い情報を持っているにもかかわらず、レセプト請求にしか使わない「宝の持ち腐れ」のような状態になっていたともいえると思います。
UKEファイルは個人で展開できる
しかし、このサイトでも繰り返し申し上げていますが、生成AIが登場したことによって、こうした「情報の宝庫」ともいえるファイルの中身を、個人でも取り出して分析できるようになってきました。これは将来の話ではなく、もう現時点で実際にできるようになっています。従来、一般的な診療所の経営者にとって、UKEファイルというのはほとんど「保険請求をするためのファイル」だったと思います。しかし今では、その中身を展開し、必要な情報を取り出して分析するところまで、個人でできるようになっています。しかも、プログラミングの知識がほとんどなくても、生成AIに相談しながら進めることで、かなりのところまで実現できるようになりました。
従来、このような分析を行うソフトウェアは確かに存在していました。ただ、それを作るのは専門の業者であり、プログラマーを雇い、医療機関向けのシステムとして開発して提供する、という形が一般的でした。そのため費用もそれなりにかかり、月額で数千円から数万円程度かかるものも珍しくありません。まして、個人の診療所がソフトウェア会社に依頼して、自院専用の分析システムを一から作ってもらうとなれば、初期費用だけで何百万円という規模になっても、まったく不思議ではない案件だったと思います。それが今では、月額1万円にも満たない、数千円程度の生成AIサービスを契約することで、少なくとも自分の診療所で使うための小規模な分析ツールであれば、個人でも作れる時代になってきました。
しかも大きな利点は、自分が本当に欲しい情報だけをピンポイントで取り出せるということです。従来の分析ソフトには、どうしても「帯に短し、たすきに長し」という問題がありました。多くの診療所で使えるように汎用性を持たせようとすると、結局のところ、どの医療機関にも共通する無難な機能が中心になりやすいからです。しかしながら、診療所というのは、規模や診療科によって欲しい情報がまったく異なります。例えば、内科のクリニックであれば、生活習慣病や特定疾患で継続的に通院されている患者さんの状況を詳しく見たいというニーズがあるでしょう。一方、小児科のクリニックであれば、インフルエンザや新型コロナウイルス感染症などの感染症について、検査件数や陽性者数、陽性率などを詳しく分析したいというニーズがあるかもしれません。さらに、こうした情報は精神科のクリニックにとっては、ほとんど必要ない場合もあります。逆に精神科には精神科ならではの、詳しく分析したい情報があるはずです。
これを、すべての診療科、すべての規模の医療機関に対して細かくカスタマイズした市販ソフトを作るのは、現実的には非常に難しいことです。あらゆるニーズに対応できるソフトを作ろうとすれば、確かにさまざまなことができるようにはなりますが、その分だけ機能が増え、画面も複雑になり、使い方を習得するために多くの時間が必要になります。せっかく業務を効率化するためのソフトなのに、そのソフト自体を使いこなすために時間を取られてしまう、ということも起こります。反対に、全診療科に共通する売上やコストなどの情報だけに絞れば、シンプルで使いやすいソフトにはできます。しかし、それだけでは確かに経営情報は得られるものの、実際の診療に直結するような、「自分が本当に知りたい情報」までは得られないことがあります。これは従来、かなり悩ましい問題だったのではないかと思います。
しかし、生成AIの登場によって個人でも開発ができるようになると、この状況は大きく変わります。本当に必要なものだけを作ることができ、必要な機能だけを実装し、余計なものは一切カットできます。そして何より、自分の診療所でしか必要としないような、非常に細かく、ある意味ではかなりマニアックな情報であっても、自分で欲しいと思えば分析できるようになります。UKEファイルという非常に情報量の多いデータと、生成AIによる個人開発を組み合わせることで、これまで専門業者や市販ソフトに頼らなければ難しかった分析を、自分の診療所に合わせて作れるようになってきたということです。これは、診療所のIT活用という意味でも、かなり大きな変化なのではないかと私は思っています。
当院での実例
私も実際に、UKEファイルを分析するソフトを別のプロジェクトとして試しに作ってみました。すべてがすぐに実用につながっているというわけではなく、テスト的な意味で作ってみた項目もあるのですが、具体的にどのような情報を取り出しているのかをご紹介したいと思います。まず月並みなところでは、月ごとのダッシュボードです。例えば2026年1月のUKEファイルであれば、1月分の保険診療に関するデータが含まれています。そこから、レセプト件数や合計点数など、まずは基本的な情報を表示できるようにしてみました。また、別のデータと組み合わせることで、自費診療も含めたクリニック全体の売上についても確認できるようにしています。
私が比較的注目して見ているのが、生活習慣病で通院されている患者さんの状況です。例えば、生活習慣病管理料を算定した患者さんの数や、特定疾患療養管理料を算定している患者さんの数を集計しています。こうすることで、生活習慣病や特定疾患などで継続的に通院されている患者さんがどのくらいいるのか、また全体の中でどの程度の割合を占めているのか、といったことを把握できます。
感染症関連では、特に当院ではコロナとインフルエンザを診る機会が多いため、それぞれの検査件数に加えて、傷病名の情報と組み合わせることで、コロナやインフルエンザの陽性患者数についても集計しています。そこから、検査を何件実施して、そのうちどの程度が陽性だったのかという陽性率も算出しています。さらに少しマニアックなところでは、コロナ・インフルエンザ同時抗原検査と単独検査で陽性率に違いがあるのか、といった比較もできるようにしてみました。もちろん、これは検査結果そのものがUKEファイルに記録されているわけではなく、レセプト上の傷病名と診療行為から判定しているものです。このあたりは、一般的な市販ソフトではなかなか用意されない、自分で作ったソフトだからこそ確認できる項目だと思います。
患者さんの属性についても分析できます。例えば年代別に10歳刻みで集計し、どの年齢層の患者さんが多いのかを一目で分かるようにしています。当院では、ある月は30代の患者さんが最も多かった、といったことも簡単に確認できます。また、実際にどこまで活用するかはまだ分かりませんが、傷病名についても、どの傷病名が多いのかを件数や割合で表示できるようにしています。さらに実験的なものとして、診療行為についても集計しており、例えば処方箋料が何件あったのかなど、どの診療行為を多く行っているのかを見ることもできます。
もう一つ、個人的に見ているのが公費です。例えば小児医療費助成など、公費を利用して受診されている患者さんがどの程度いるのかを確認しています。公費を利用する患者さんでは窓口会計が基本的に発生しないため、会計業務の負担という観点からも少し注目しています。このように、単純な売上や患者数だけではなく、自分が気になった項目を自由に追加して確認できるところが、自作する大きなメリットだと思います。
もちろん、ここで挙げたものはほんの一例です。UKEファイルにはかなり多くの情報が含まれていますので、何を知りたいのかによって、さまざまな角度から分析できると思います。私自身も、まず思いついたものを試しにソフトへ実装してみたという段階ですが、実際に展開してみると、その情報量の多さには驚かされます。見方や解釈を変えることで、UKEファイルはやはり非常に大きな「情報の宝庫」になります。ある程度規模の大きなクリニックであれば、この情報を分析して経営戦略を考えることにも十分使えるでしょう。
一方、小規模なクリニックでも意味はあると思います。例えば、生活習慣病や特定疾患で継続的に通院されている患者さんの割合を把握すれば、いわゆる安定収益につながる、比較的継続して受診してくださる患者さんがどの程度いるのかを見ることができます。単に「今月は患者数が何人だった」「売上はいくらだった」というところから一歩進んで、クリニックの患者構成や診療内容そのものを数字で把握できるところに、UKEファイルを分析する面白さがあると思います。