現場にいる人がプログラムを組むのが最強

PUBLISHED AI #Tampermonkey

電子カルテの定型作業のような小さなストレスは、現場にいる人だからこそ気づけます。以前は事実上無理だった「現場の人が自分でツールを作る」ことが、生成AIの登場で現実的になりました。Tampermonkeyの例を交えて考えます。

電子カルテのちょっとした機能改善や簡単な補助ツール、あるいはパソコン内のファイル整理など、小さなことでも、プログラムを使って効率化すると、仕事の効率や生産性の向上にかなり役立ちます。世の中には非常に多くの便利なツールがありますが、やはり強いのは「現場を知っている人」が「必要に迫らせて」作るツールです。実際にその現場にいて、どこに無駄があり、どの操作がストレスで、何が必要なのかを理解している人が、自らプログラムを書いてツールを作る。これが最も実用的で、効果も大きいのではないかと改めて感じています。今回は、そのことについて少し考えてみたいと思います。

小さなストレスの積み重ねが大きな負担になる

例えば、電子カルテでのTampermonkey活用があります。「クリック数は多いけれど毎日必ずやる」「患者さんごとに繰り返す」といった電子カルテの定型作業は意外と多いです。一つ一つは数十秒で終わるような作業ですし、致命的に大変なわけではありません。ただ、毎日ずっと繰り返していると、「これは面倒だな」「効率化したいな」「別に人間がやらなくてもいいのでは」と感じる場面はかなりあります。先生方もそういう経験は多いのではないでしょうか。

具体的な例を挙げると、例えば「この患者さんは公費だから患者メモに“公費”と入れておきたい」とか、M3デジカルであれば、デジスマ決済の患者さんに「デジスマ」というタグを付けておきたいとか、そのような細かいものです。私自身もよくやっていますが、サマリーを書いている患者さんについては、カルテを開いたときに必ずサマリーを確認するように、患者メモに「S」というアルファベットを入れておく。あるいは、病名を一括で当日中止の処理をして、急性疾患の病名を2週間後まとめて「治癒」登録したりする作業もそうですね。本当に細かいことではあるのですが、こういう“ちょっとした手間”は非常に多いです。

一つ一つは数秒レベルの話ですし、「こんな小さい改善に意味があるのか」と思われるかもしれません。ただ、致命的ではないけれど、毎回ポチポチ操作するのが微妙にストレスになる。こういう小さな負担が積み重なると、意外と大きな疲労になります。例えば、1人あたり1分しかかからない業務だったとしても、1日50人来れば1日50分のコストです。それを毎日続けて、さらに年間で換算すると、かなり大きな時間になります。

単純作業を省略することはリソースを節約する

こうした単純作業というのは、「つまらない」と言ってしまうと少し語弊があるかもしれませんが、実はかなり集中力を削ってくる部分があります。本来であれば、もっと重要な意思決定や臨床判断にリソースを使いたいわけですが、細かいクリック操作や確認作業が積み重なってくると、少しずつ思考のリソースを奪われていきます。つまり、こうした作業は単に時間を奪うだけではなく、「考える力」や「集中力」も消耗させます。特に患者数の多いクリニックでは、この影響はかなり大きいと思います。1回1回は小さな作業でも、それを毎日、何年も積み重ねること膨大な時間になります。そう考えると、先生方の貴重な時間や集中力が、生産的とは言えない雑務に消費されてしまっている、という見方もできるのではないでしょうか。

先生だけではなくスタッフやクリニック経営にも寄与する

もちろん、私のようにレセプトや病名管理まで含めて、全部自分で把握している医師というのは極めて少数派で、実際には事務スタッフの方が担当しているクリニックが多いと思います。ただ、その場合でもこうした効率化にはメリットがあります。というのも、事務スタッフの方にとっても、単純作業の繰り返しというのはやはり負担ですし、決して面白い業務ではないからです。例えば、今まで10秒かかっていた操作がワンクリックで終わるだけでも、時間や労力の節約効果はかなり大きく、ストレスも確実に減ります。集中力を温存できれば、その分ミスも減り、また患者さんの対応などの、他の重要な仕事にも余力を残すことができます。

さらに、クリニック経営最適化という視点でもメリットがあります。例えば、これまで5人で回していた事務業務が、効率化ツールの導入によって4人、あるいは3人でも運用可能になるかもしれません。また、これまでレセプト業務を完全に事務スタッフ任せにしていた先生でも、こうしたツールを使いながら徐々に理解を深めていけば、私のようにレセプトや会計を含めて、全て自分で把握できるようになる可能性もあります。そうなると、人件費を含めたコスト削減にもつながりますので、クリニック経営としても、実務的なメリットがあるのではないかと思います。

現場の人間でなければ作れない

必要なツールというのは、やはり現場にいる人間でなければ、本当に優れたものは作れないのではないかと思います。もちろんエンジニアはコードを書くことはできますが、「現場で何に困っているのか」「どの機能が切に必要なのか」「逆にどこは不要なのか」といった感覚は、実際にその現場で毎日使っている人でないと、なかなか理解しにくい部分があります。外から見れば、「2〜3クリックで済むなら別にいいのでは」と思われるようなことでも、現場の人間からすると、「これを1クリックにできたらどれだけ楽か!」という感覚があります。こういう感覚は、毎日同じ作業を何百回、何千回と繰り返している人でないと、なかなか実感として分からないのではないかと思います。

生成AIの台頭以前は事実上不可能だった

ただ、自分でツールを作ったり、本格的にプログラムを書いて電子カルテを操作したりするというのは、以前であればかなりハードルが高いものでした。例えば、ファイル名を一括変更するといった比較的単純なプログラミングであれば、勉強すれば不可能ではなかったと思います。ただ、それでも学習コストは決して低くありませんでした。まして自分で電子カルテ向けのツールを開発したり、現場に合わせて細かくカスタマイズしたりするレベルになると、開業医の先生が独力で行うのは現実的にはほぼ不可能でした。

例外的にそのようなことができたのは、元々エンジニア出身だった方が医師になったような、かなり限られたケースだったのではないでしょうか。ですので、「ここを少し変えたい」「こういう機能が欲しい」と思ったとしても、技術的なハードルや、学習コストが高すぎて、自分で対応するのはほぼ不可能でした。また外部のエンジニアに依頼しようとしても、小規模クリニックではコスト的に現実的ではなかったと思われます。

しかし、生成AIの登場が状況を大きく変えた

しかしながら、生成AIの登場によって、その状況は大きく変わりました。今では単純なコードであれば、指示を出すだけで生成AIが書いてくれますし、以前であれば10年以上経験のあるプログラマでなければ難しかったような処理でも、基礎知識を付けて、生成AIへの指示出しができれば、非エンジニアでも十分扱える時代になってきています。例えば、電子カルテを外部ソフトと連携して操作するような、比較的複雑なロジックであっても、現在では、生成AIを活用することで、便利なツールが短期間で作れてしまうことがあります。実際、たった1日である程度形になるようなケースも珍しくありません。

生成AIの台頭が、「産業革命以来の劇的な変化」と言われることがありますが、個人的にはかなり本質を突いている表現だと思います。特に生成AIは、その本体がプログラムであるため、プログラミングが非常に得意です。そのため、うまく活用できれば、仕事の進め方自体が変わり、生産性が爆発的に向上するということが、すでに現場レベルで起き始めています。

自分に便利なツールを作るのが普通になっていく

これは、開業医や医師の仕事に限った話ではないと思います。今後は、パソコンを使うあらゆる仕事において、自分に合ったツールを生成AIと相談しながら作り、それを日々の業務に落とし込んでいくという働き方が、標準的になっていくのではないでしょうか。個人的には、これは10年以内には普通の光景になってくると予想しています。これまでも、事務職の方などがExcelマクロを使って業務効率化を行うということはありました。ただ、それもやはり学習コストが高く、実際に使いこなせる人は限られていました。しかし現在は、生成AIによってそのハードルが劇的に下がり、生成AI自体も、日単位と言っていいほどのスピードで精度が向上しています。そう考えると、「生成AIを使いながら、自分専用ツールを開発し、業務を改善する」ということ自体が、将来的には社会人の基本スキルの一つになっていくと私は考えています。


About the author この記事を書いた人:内科診療所の院長

IT企業でもコンサル会社でもなく、診療をしている開業医が、コードの作成から運用まで一人で行っています。取り上げるのは、実際に試して運用しているものだけです。

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